2013年9月8日日曜日

Blackieの弦間隔、PUのセンターずれの謎

■Blackieの弦間隔がPUのポールピースの間隔と違う?

ワタシのBlackie、よく見ると6本の弦全てがPUのポールピースの真上を通っている訳じゃないんです。高いギターなのにねぇ。…これって、もしかして不良品でしょうか?


コレに気づいてから、楽器屋さんの店先でBlackieを見かける度に、見るようにしていました。その結果、驚くべきこと(というホドでもないが)、全部のBlackieが同じなんです。ワタシのギターも同じですが、フロントPUの6弦はポールピースの真上を通っている。でも、1弦はポールピースのチョット外側を弦が通っているのですよ。全部のBlackieで。

では、御本家・Clapton師匠のBlackieでどうなっているのか確認してみましょう。


おお、1弦と6弦とで、ポールピースと弦の位置がズレていますね。しかも、(撮影の向きが微妙ですが)6弦がポールピースの真上を通っていて、1弦がポールピース真上より若干外側を通っているように見えませんか? ワタシのギター(と世に売られているBlackieの多く)は、不良品ではないようです。(ホッ♪)

ちなみに、Fender USAのサイトのArtist Seriesのページを見に行きましたが、Blackieの正面からの写真は不鮮明だし(1弦がよく見えない)、PUのポールピースと弦の位置関係が解りそうな写真(PU×3個の辺りが大写しされた写真)は斜め正面から撮られたものとなっております。つまり、PUのポールピース間隔と弦の間隔が違うのか同じなのか判断できる写真はありません。すなわち、Fender USAは、弦とポールピースの位置関係が実は微妙であることが解る証拠写真を、サイトには1個も置いてくれていません。まぁ、そこに何らかの意図があれば、そんな証拠写真は置かないでしょうね。

■なぜこんなことに?

今まで、弦の間隔とかあまり気にしていませんでした。速弾きとかあまりしないしね(すんげー練習したパターン以外速弾きなんて全然出来ないヘタレです、ワタシは)。これまでの認識は、高ポジションでは弦間隔がGibsonよりFenderの方でチョット広いかな、といった程度でしょうか。

でも、そう言えば、以前どこかでFender USA品はオールドとモダンでブリッジのサドルの幅が違うという話を見たような気がしたのです。その時に見た(ような気がする)ページを見つけました。ルシール様という方のブログで、「ビス間ピッチ、弦間ピッチの罠」(<http://ameblo.jp/smartstatelogic/entry-11227443772.html>)です。

Fender Japanが売っている(部品としての)Stratocaster用のサドルも2種類の幅があるし、後藤ガット社(Gotoh社)に至っては10.5、10.8、11.3mmの3種類の幅があります。

ここらで、ブリッジ部とナット部、それに加えてPUの位置での弦間隔をまとめておきましょう。


※弦長に対するPUの位置、これにも深~い理由(設計というか計算というか)があるのですが、これは機会があったら改めて述べますので、今回はパスさせて下さい。

こうやって見ると、Fender Japan TL-STDやFender USA Stratocaster American Standardはフロント(ネック)・センターの2PUの位置での弦間隔が、モダンなPUのポールピース間隔(10mm)前後の程良い値になっていることがわかります。リアPU位置でのポールピース間隔も、PUの取り付けが傾斜している分を考慮すると、なかなか良い具合のポールピース間隔になっていることがわかります。

さて、問題はBlackie。

何故、モダンなブリッジ間隔でなく、敢えてオールドのブリッジ間隔にしているのか。

モダンな設計のNoiseless PUを使う以上、オールドタイプのブリッジを採用することは、普通に考えれば、音的にはマイナスにしか働かない筈です。少なくとも、弦がPUのポールピースの真上から外れた位置になるようにしてまで、オールドタイプのブリッジ(オールドタイプのSynchronized Tremolo、と言うべきかも知れませんが)を採用するのか。

  • オールドタイプの弦間隔の方が手に馴染んでいるからか? …古いギターから新しいギターに持ち替えた時に、出来るだけ違和感の少ないようにしたいというギタリストが多くても不思議ではありません。Stratocasterのネックシェイプは通常C-Shapeと呼ばれるものですが、初期のBlackieはV-Shape、現行のBlackieでもSoft V-Shapeと呼ばれる形状で、ネックの裏側は丸み帯びた三角形です。この形状、Clapton師匠が愛用しているMartin製アコギのネックシェイプに近いものでもあります。そこにユーザーとしてのコダワリがあったとしても、何の不思議もありません。
  • オールドタイプのSynchronized Tremoloじゃないと狙った音が出せないのか? …サドルの幅を変えるということは、弦の振動をブリッジ~ボディに伝える重要部品の大きさを変えることになります。つまり、出したい音のために、敢えてこうしている、という可能性も考えられなくはありません。

■意図的にPUのセンターをずらしてある?

ところで。最初の写真をもう1回見て頂きましょう。


何か変じゃありませんか?

そう、ピックガードとネックの間に1mm位の隙間があるのです。他のBlackieはどうなのでしょうね? たぶん、どの個体にも、こんな隙間は無いでしょう。

何故なら、このピックガードは、Blackie用の物ではないからです。

このピックガードは、元から付いていたピックガードが経年劣化で反り始めてしまったので、交換した物なのです。Fender純正品ではなく、ALL PARTS製のコピー品ですが、反りにくくなることを狙って、純正品より厚い物を使っています。厚さ以外については、材質も、ネジ穴の位置も、ネックポケット部分の切欠きも、全て純正品と同じです。

…いや、厳密に言うとFender Japan用の物だったので、Fender USA用の物と比べて、ポット穴の径が僅かに小さいという違いがありました(穴のセンター位置は同じです)。このピックガードをBlackieに載せるにあたり、穴径の違う箇所は、センターずれが無いように、リーマーを使って丁寧に加工して穴を広げました。加工量は0.3~0.4mm程度でしょうか。遠目には全く分からない程度です。それに、ボディへの固定用のネジ穴は全くいじっていません。

なので、1mmもの位置ずれは、起きようがありません。

実はこのピックガード、Blackieに付ける為に、もう1箇所だけ削った場所があります。

もう1枚、決定的な写真を見て頂きましょう。


これは、元々Blackieに付けられていたピックガードと、ST62用のピックガード(Fender純正品)を重ねて置いた写真です。手前がBlackieの物で、奥がST62用です。ST62用のピックガードは、ST57用が1層材であるのに対して3層材であることと、ボディに固定する為の穴が8点から11点に増やされていますが、それ以外はST57用と同じです。同じ筈です。

何かおかしくないですか?

そう、ネックポケット用の切欠き位置が微妙に違うのです(Blackie用の方が切欠き位置を、1弦側に1mm位、ずらしてあります)。通常の製造工程では、板材をプレスで抜くだけなので、このようなズレは起こる筈がありません。つまり、これは通常のST57用とは別に、Blackie専用に作られたピックガードということです。

ピックガードのネックポケット用の切欠きが、1mm強、1弦側にずらしてあります。で、ネジ穴等は普通のST57用と全く同じ。そして、ギターのボディにある、ピックガード固定用のネジ穴は、通常のST57と比べて、1mm強、6弦側にオフセットされています。このことは、つまり、Blackieでは、PUの位置が、普通のST57よりも1mm強、6弦側にずらして配置してあるということです。それも意図的に、です。

わずか1mmですよ。

Stratocaster (ベースモデルはST57)はボディの幅が約330mm。その中で1mm位、何かの配置がずれていても、全然目立ちませんよね。しかも、このモデル専用のピックガードまで作って、意図的にずらしてあることがパッと見全然解らないようになっている。

この結果、Blackieは以下のようなセッティングになっています。

  •  PUの位置で、PUのポールピース間隔よりも、弦の間隔の方が若干広くなってしまっている
  •  6弦はPU上で、ポールピースのほぼ真上に来るような配置になっている。
  •  1弦はPU上で、ポールピースの真上から1.5~2mm程度、外側にずれた場所に配置されている。

これ、全部、意図的にそうなっています。

そして、専用ピックガードを使っているから、ピックガードのネックポケット脇(6弦側)には変な隙間が出来ないようになっています。


この写真からも分かる通り、Clapton師匠が使っているBlackieにも、売り物のシグネチャーモデルにも、ワタシのギターのような変な隙間はありません。

先ほど、交換して付けた普通のST57用のピックガード、もう1箇所だけ削った場所があると申し上げましたが、何のことは無いですね、ネックポケット部分の切欠きを1弦側に1mm位削って広げてあり、Blackieに装着できるようにした、ということです。その分、6弦側に1mm位の隙間が出来ちゃった、と。

もしかしたら、ボディ自体、ネックポケットの位置を通常のST57より1弦側にずらしてあるのかも知れません。世界中に数多く出回るClapton師匠のシグネチャーモデルですよ。世界のFender様のことだから、それ位やりかねない。とは思っています。

ただ残念なことに、ワタシの手元に通常のST57は無いので、比較のしようもありませんし、もしあったとしても、高精度な測長計とかを持っている訳でも無いので、正しく比較できるかどうか。ただひとつ確実に言えるのは、Blackieではネックのセンター位置とPUのセンター位置が意図的に1mm位ずらされている、ということです。そして、その為、(ボディが通常のST57と違うかどうかは現段階ではよく分からないのだけど)少なくともピックガードはBlackie専用の物が使われています。

さて、PUのセンターが意図的にずらされていることが解った時点で、もう1つ説明出来ることがあります。

このBlackieのPUですが、ポールピースのセッティングが弦高のRに合わせているのでなく、4弦でチョイ高め、5弦が低め、2弦はもっと低め(フロントPUとリアPUではPUカバーのツラよりさらに低い)という、ヴィンテージサウンドを求める人がよくやる定番のセッティングになっています。

ちなみに2弦のポールピースを低くするのは、(PUの周波数特性とかもあるのでしょうが)各弦の音の拾い方のバランスを取るというか、特にコード弾きする時の音全体のバランスを引き締めるような効果を期待してのものだと言って良いでしょう。

あ、書き忘れていましたが、ワタシはこのギターのポールピースの高さは買ってから1度もいじっていません。ポールピースの調整をするのって手間がかかるし、買った時からものすごくバランスが良いギターだったので、ポールピースまでは手を加えていません。これまでに調整したことのある箇所は、ネック・弦高・PU自体の高さ、それとオクターブチューニング、といった程度です(あまりいじる必要のない、最初からバランスの取れたギターでした)。

このポールピースをよく見てみましょう。


2~6弦用のポールピースは、上記の通り、定番のセッティングです。でも、1弦用のポールピースだけ、やけに背が高くないですか? これは、1弦がPUのポールピースから遠くに行っちゃっているので、これを補う為のものだと考えられます。

1弦が2弦側に若干寄っているような場合は、1弦の振動は1弦用のポールピースだけでなく、2弦用のポールピースも拾ってくれます。でも、1弦が反対側に遠くなっちゃっている場合、ポールピースを高くする位しか、補いようがないんですよね。

でも、買った時から(つまり工場出荷時に検品担当者がOKを出した時には既に)、何らかの意図に基づいて、このようなセッティングになっていたのです。

勿論、弦がポールピースの真上にいないということは、普通に考える限り、音的にはネガティブな方向に働きます。

でも、これまでにも度々書いて来た通り、そこには何らかの意図があります。

■まとめ

現行タイプのNoseless Pickup仕様のBlackieは、通常のST57と使っている回路・部品が違う(PUとアクティブ回路が入っている)以外に、部品の配置面でもST57と違いがある。それを簡単にまとめると、以下の通り。

  •  オールドタイプのSynchronized Tremoloを採用することで、PU直上での弦間隔が、PUのポールピースの間隔より広くなってしまっている。
  •  PUの配置が、ネックに対するセンターから1mm位、6弦側にオフセットされた配置となっている。
  •  PUの位置をオフセットする為に、Blackie専用のピックガードまで作られている。
  •  1弦がPUから遠くなってしまったのを補う為、1弦用のポールピースだけ顕著に高くセッティングされている。

で、このようなセッティング自体に、Noiseless PU仕様を設計した時から、何らかの意図がある。

敢えてこのようなセッティングにしている理由・意図・設計方針は、結局のところ、我々は知り得ないでしょう。Clapton師匠はプロ。作曲・演奏の技術だけでなく、音作りのノウハウを持っていて、それでメシを食べています。そのノウハウを公にすることは、まず無いでしょう。敢えてこのようなセッティングにしている理由…それはもう、Clapton師匠ご本人と、Fender Custom Shopの担当のビルダーさんを含む限られた人にしか解らないことなのでしょう。

我々は色々と憶測することは出来ますが、その真意を知ることは無いのだと思います。

んで。

Blackieとは言っても、ワタシのギターは、Fender Custom Shopで造られた物ではありません。大衆版です。Blackie Up Dateと呼ばれるこのギター、Fender USAが設定した定価が28万円位、流通価格は(今日現在で)20~25万円位です。

Clapton師匠が使っているのと同じBlackieは(Fender Custom Shopから売られている物がほぼ同じだとして)流通価格70~80万円位のシロモノです。

Blackie Up Date、Eric Claptonシグネチャーモデルということで価格が上乗せされている分を考えても、木材の選定や、細かな調整の程度が御本人使用のモデルと同じである筈がありません。そんなことは期待出来ません。

でも重要なのは、(全然目立たない形ではありますが)Clapton師匠御本人が使っているギターと、基本設計自体は同じであるということです。

Fender USAとしては、おそらく、通常のST57で、ボディ材をアルダーとして、指板を22Fにした物にNoiseless PUとアクティブ回路を載せた物を「Eric Clapton Signagureモデル」として売ることも出来た筈です。おそらくその方が商業上もラクなのではないでしょうか。他のモデルと共通のボディ、共通のピックガードを使うことが出来る訳ですから。

でもそうしていない。

Fender USAは、PUセンターとネックセンターを敢えてオフセットさせた、Clapton師匠御本人が使っているギターと同じ仕様の物を、ファンが手に入れやすい価格で提供してくれているのです。
これって凄いことじゃありませんか?
ファンへの最大のサービスだと、ワタシは考えます。

■余談

今回の調査で一番役に立ってくれたのは、キーホルダー型の小型コンベックス(金属製の巻尺)。
あと、計算用のMS-Excelも忘れちゃいけないかな。


大モノを扱う時は3mとか5mの「ちゃんとした」コンベックスを使ったり、小物でも本格に扱う時は矩尺を使ったり、場合によってはノギスを使ったりするのですが、今回のような場合には、コレで充分。というか、時々使いたくなるから、家の鍵と一緒にキーホルダーにして付けています。

家の鍵と一緒に持っているので、出先でも結構役立ちます。たとえば、自転車屋さんとか、楽器屋さんとか。。(笑)

■余談・その2

ネックとPUのセンターずれ。…これは困ったことになってしまいました。

先日書いた通り、現行型のBlackieのPUだけLace Sensor Goldを載せて、「なんちゃってLace Sensor仕様Blackie」を作ってみようなんて思っていたのですが、Lace SensorというPUは通常のポールピースが無い構造となっています。PUと弦の位置関係においては、時々見かける、ポールピースがバー状になっている物(1~6弦全部を1枚か2枚の板状のポールピースが受け持つ)と同じであると考えて良いでしょう。

問題は、Lace Sensorは各弦独立にポールピースの高さ調整が出来るようになっていないということ。

Noiseless PU仕様のBlackieにLace Sensor PUを載せた場合、1弦だけPUのポールピースから遠くなってしまい、それは補いようもない構成になっていると考えられます。PUの1弦側を6弦側より高くすれば済むなんて単純な問題じゃありません。そうすると、今度は2弦の音を強く拾うようになってしまうので、結局、全体のバランスが崩れてしまうのです。それこそ、PUのセンター位置がネックのセンター位置に来るように適切にPU用穴を配置した、ワンオフ物のピックガードを自作する位はしないと、Lace Sensor PUは「正しい位置」に収まらないということです。

これはちゃんと確認した訳ではないので憶測に過ぎませんが、各弦に対応した独立したポールピースを持たないLace Sensor PUを使ったBlackieでは、ネックのセンターとPUのセンターは合わせられていたのではないか、と考えています。PUをLace SensorからNoiseless PUに変更する時になって初めて、ネックのセンターとPUのセンターをずらした設計にしたのではないでしょうか。

という訳で、「なんちゃってLace Sensor仕様Blackie」は、作ってみても、1弦の音だけあまり拾ってくれない物になってしまうかも知れません。

でも試作をやめるツモリはありませんけどね。
だって、色々いじくるのって、楽しいから(笑)。

ワンオフ物のピックガードね、、、。作ってみましょうか。

ネックポケット用の切欠きと、各PU用の穴(とPU固定用ネジ穴)を1弦側に1mm位ずらして配置した、(それ以外はST57用と同じ)ピックガード。それ位だったら道楽でも「アリ」でしょう。まぁ、現行のBlackieにLace Sensorを載せてみてから、色々考えることにします。

あ、その前にネックポケットの切欠きだけ1mm1弦側にずらしたワンオフのピックガードを作って、ワタシのBlackie(Noiseless PU搭載時)から変な隙間を無くすのが先決かも知れませんが。まぁ、コレはBlackie専用ピックガードの(厚さだけ違う)デッドコピー品を作るだけですけどね。


【2016/11/03追記】
3年越しに、本編の続編を書きました(謎は解明されませんが、データが増えています)。興味のある方はどうぞご覧下さい。
<http://yuu0720.blogspot.jp/2016/11/blackiepu.html>

1 件のコメント:

  1. ポールピースの真下に弦が通らないと音的にネガティブ、と言うのが自明ではないと思います。出力は落ちますが、高さで補正出来ます。
    嗜好と設計の範囲と思います。

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