2016年11月3日木曜日

Blackieの弦間隔、PUのセンターずれの謎(続編)

久しぶりにギターいじりの話をガッツリ書きます。

珍しく本ブログにコメントが付きました(知人・友人の多くは口頭・メール・SNS等で反応…書き込むのに躊躇する気持ちも理解できますが)。返信コメントを書こうと思ったのですが、コメント/返信欄の文字数枠では全然足りません。書きたい量の1%にも満たない位(笑)。という訳で、別記事を立てさせて頂きました。
3年前の記事なんかを読んで下さってありがとうございます。まさか3年越しに続編を書くことになるとは、全く予想していませんでした。以下、何かの参考にでもなりましたら幸いです。

では最初に、Eric Clapton氏のBlackieを見てみましょう。2001年のライブ映像では、弦間隔とPUのポールピース間隔が合っていません(ワタシのBlackie=2001年製=もそうですが、6弦がポールピースの真上を通り、1弦はポールピースより外側に1~1.5mm位ズレています)

2001年版Blackie
Eric Clapton: One More Car, One More Rider Live on Tour 2001
グラフィックペイントなので“Blackie”は不適切?
1弦がポールピース真上を通っていません。

参考までに、比較的最近(2010年)のBlackieも見てみましょう。1~6弦とも、ポールピースの真上を通っているように見えます。

2010年版Blackie
Eric Clapton: Crossroads Guitar Festival 2010
色がpewterなので、これも“Blackie”ではない?
ポールピースと弦のオフセットが無い?

ここでは、“Blackie”とは、Fender USAのEric ClaptonシグネチャモデルStratocaster (ベースとなっているギターは1957年仕様のいわゆるST57)のことを指します。発売後何度かマイナーチェンジが入っていますので、軽く分類しておきます(ワタシのBlackieは以下の2.に相当します)
  1. 1990年代半ば…ピックアップ(PU)はFender-Lace Sensor Gold、Mid-Boost回路付
    Fender社コロナ工場のシグネチャモデル専用のラインで製造。ヘッド表にClapton氏のサイン(を印刷したもの)があります。S/N (製造番号)は通常品と異なり、シグネチャ・シリーズの番号が付けられています。
  2. 1990年代終わり頃~2000年代半ば…PUはFender Vintage Noiseless PUに変更
    Fender社コロナ工場のシグネチャモデル専用のラインで製造。ヘッド表にClapton氏のサイン(を印刷したもの)があります。ピックガード形状が通常のST57と微妙に違います(PUを6弦側に1~2mmオフセットしてあります)。S/Nは通常品と異なり、シグネチャ・シリーズの番号が付けられています。
  3. 2010年頃~現在…仕様は似ていますが、微妙に仕様変更が入っています(余談③も参照)。また、以下の2グレードに分かれました(Eric Claptonモデルだけでなく、Jeff Beckモデル等、他アーティストのモデルも2グレードに分かれました)
    • カスタムショップ製、超高級品
      使われているパーツ類は通常品と同じようですが、木材の選定もギタービルダーも全然別物。ヘッドにClapton氏のサインはありません。ヘッド裏にCustom ShopのVマークが付いています。実物を触ったことが無いので、ピックガード形状等の細かい点については未確認です。
      ↑Eric Clapton氏が手にしているのとほぼ同質のギターでしょうが、非常に高価!
    • Fender社コロナ工場の通常ラインで製造された一般品
      ヘッド表にClapton氏のサイン(を印刷したもの)があります。ピックガード形状は通常のST57と同じようです(2.から仕様が少し変わったようです)。ネックの断面形状「Soft V Shape」が、2000年頃のモデルと比較して、少しキツい「V」なりました(Martin 000-28ECもそうですが、Clapton氏にとってはキツめのVネックの方が弾き易いのでしょう)。なお、S/Nについては、シグネチャモデル用の番号ではなく、他の一般モデルと共通のものになりました。
たぶん1.の前にLace SensorでないPUのシグネチャモデルもあると思うのですが、そこまで遡って調査はしていません。画像・映像を見ると、ポールピースの露出したPUが搭載されたST57 (1970年代)、ポールピースが隠れたPUの時代(1986年~、当時はまだLace Sensor PUは存在していない)、と幾つか世代があると思います。が、Fender社がその時代に売っていたモデルまでは調べていません。…中途半端でスミマセン。
  • Lace Sensor PUの米国特許(USP #4,809,578)は、1987/07/14出願、1989/03/07登録となっています。製品リリースは1987年末~1988年頃と見て良いでしょう。つまり、Clapton氏が復活した頃(1986年)はまだ存在していなかったと考えるのが妥当でしょう。
で。Claptonモデルとして売られているST57は、電装部品も通常のST57と違います(後述)。それでも「Claptonモデル」として売れるので、Fender社はわざわざ別仕様のパーツ類を採用しているのでしょうね。2000年頃の製品(上記分類の2.)は、パッと見は差が解りにくいですが、ピックガード形状も通常のST57と違います(ネックポケット位置がずらしてあり、PUが6弦側にオフセットされています)


Fender USA Eric Claptonモデル(2001年製)。
ワタシのBlackieは上記分類の「2.」に当たります。
1弦側がPUのポールピースからずれています。

前置きが長くなってしまいました。

頂いたコメントですが、
  • ポールピースの真下に弦が通らないと音的にネガティブ、と言うのが自明ではないと思います。出力は落ちますが、高さで補正出来ます。嗜好と設計の範囲と思います。
というものでした。これについて、ワタシなりの見解を簡単にまとめます:
  1. ポールピースと弦の横位置がずれていると、音的には明らかに影響が出ます。
  2. 弦がポールピースから遠い位置にあると、出力は下がります。これを補正するためにPU (の1弦側)を高くすると、2弦・3弦もよく拾うようになっちゃうので、バランス調整が難しくなります(どこかで妥協することになります)
  3. ワタシの目論みは、BlackieにLace Sensor Gold PUを搭載することです(一度試した後、元のVintage Noiseless PUに戻してしまいました)。Lace Sensor PUは、元々1弦を拾いにくいという悪評判があります。加えて、現行BlackieのPUをポン付けで交換する場合、PU位置が(スタンダードなSTと比較して) PUが1弦から離れる位置にオフセットされていることから、2.の調整がよりシビアになります(Lace Sensor PUではポールピースの高さ調整も出来ません)。その反面、Lace Sensor PUはポールピースと呼べる物が無いPUなので(かなり特殊な構造)、ポールピースと弦の横方向のオフセットによる音質変化には神経質にならなくて良さそうです(それよりも1弦の音量低下の方が重要)
これを「音的にネガティブ」と捉えるかどうかは、聴く人(弾く人)次第でしょう。

ワタシ元記事は、Eric Clapton氏は何の意図/目的をもって、わざわざずらしているんだろうな~?という考察(愚考)です。が、PUと弦の横位置を意図的にオフセットさせ、「嗜好と設計の範囲」で音を作っていることは間違い無さそうです。

・  ・  ・  ・  ・

上記1.~3.について少し詳しく説明させて下さい。

1. 〔弦-PUの横ずれ→音への影響〕

ネット上で見てみると、ポールピースと弦をずらすと音が太くなるという(ちょっとビックリな)効果があるようです。確かに、Eric Clapton氏の2000年頃の音作りは、低音弦はエッジの効いた音、高音弦は太目の音(特にハーフトーンでMid-Boostと組み合わせると効果的)、という方向性だったように思います。オールドタイプのブリッジ(Synchronized Tremolo)の弦間隔がVintage Noiseless PUのポールピース間隔より若干広くなることを積極的に利用し、6弦はポールピースの真上、1弦はポールピースからずれた位置、…に弦を配置して、そういう音作りをしていたのかも知れません(あくまで推測ですけど)

この「音が太くなる」効果について、実際にギターを改造して確かめたというツワモノの記事がありますので、もし良かったらご覧になってみて下さい。
ワタシのBlackieは、ネジ止め無しならば、(後付けのピックガードが形状が合わずネックポケット部を一部削っているので)横方向のオフセット量を若干変更できます。元記事を書いた後、Noiseless PUを載せた状態で、PU-弦の横方向のオフセット量を変化させて音への影響を確かめてみましたが、確かに微妙に音質が変わっていると思います(オシロスコープで波形を見るトコロまではやっていませんが、DTMに録音~聴き比べてみたりしました)。違いを言葉で説明するのは難しいのですが、オフセットさせると、スタンダードなSTの音よりも確かに太い音です。ちょうど2000年頃のClapton氏に似た音を出しやすいです(2010年頃からClapton氏の音、また変わりましたけどね)
  • この実験の時は、ネジ穴を開け直すのが嫌で、ピックガードはマスキングテープで固定(笑)。
  • Claptonコピーをするなら、ギターだけでなく、アンプも合わせなければいけません。90年代のMarshallのチューブアンプ(50W以上)が良い感じになりますが、これを模したアンプ・シミュレータもソコソコ感じが出せます。←実はVOX社製のミニアンプ「MINI 3」のアンシュミ「UK '90S」の音が気に入っていて、よくMacのアナログ入力(DTM)の前段に入れて使っています(出力が小さいのもDTM向き)。
  • Claptonフリークなら、Fenderの1957年型Stratocaster (“Blackie”)は鉄板、他にGibsonのSG (サイケデリックペイント)やES-335 (セミアコ)、Byrdland (フルアコ)、アコギならMartinの000-28EC、…辺りも要チェックですが、本当にチェックするのは野村義男さん辺りがやってくれているでしょう。ここではBlackieだけについて書きます(このBlackieだけでも変遷を追うとキリが無いデス…)。
さて、ポールピースとオフセットを付けることで音が太くなるとは言っても、チョーキング(bending)とかでフツーに起こる現象なので、気にしない人は気にならない程度の差しか無いでしょう。でも、チョーキングやアーミングを多用するプレイヤには、(6弦独立型でなく)バー型のポールピースが使われたPUを使う人も多いことから、気になる人にとっては違いがある領域なのでしょう

2. 〔1弦とPUとの距離が離れる→出力低下の影響と対策〕

ワタシのBlackieに搭載されているPU (Fender Vintage Noiseless PU)を見ると、ある程度対策済みになっているようです;他モデルのギターに搭載されているNoseless PUや単品売りのNoiseless PUよりも1弦のポールピースが若干高く設定されています
  • このBlackie搭載のNoiseless PUは、フロント/センター/リアでそれぞれ異なるポールピース高に調整されています(一定以上の価格のギターはこの手の調整がされていることが多いですね)
  • このBlackieは、ピックガード形状(ネックポケットの位置→これでPUがセンターから6弦側に1~2mmオフセットされている)、PUのポールピースの高さについても、このモデル(Blackie)専用の設計になっているようです。
    • BlackieはMid-Boost回路が乗っている他にも、電装系部品もスタンダードなSTと違う物が多く使われています。ボリュームのジャックポッドの抵抗値が違う、中央のトーンはTBX、端のトーンツマミはMid-Boostのコントローラになっている、ジャックがMid-Boost回路の電源SWを兼ねている、…といった辺り。
3. 〔このBlackieにLace Sensor PUを付ける場合の留意点〕

前述の通り、ワタシのBlackieにLace Sensor PUをポン付けすると、①そのままでは1弦がPUから遠い配置になる、②Lace Sensor PUは元々1弦の音を拾いにくい、という二重苦が待っています。真面目にやるなら、キチンと対策を打つべき領域でしょう。根本的な対策として、PUの左右位置のオフセットが小さくなるように、ワンオフ物のピックガードを作るなどが考えられます。でも結構な出費になるので、どうも試す気になれません(笑)。

ワタシの場合、以前Lase Sensor PUを載せていた時期に書きましたが、Lace Sensor PUではピッキングの上手・下手がモロに出るようになってしまうので、ギター工作の前に練習しようぜ、というオチ(笑)。

・  ・  ・  ・  ・

余談①

Lace Sensor Gold PUの効能は、以前一時期Blackieに付けてみた時に色々書きました(PUをかなり高くしても弦振動を阻害しない実験結果とか、仕組みに関する特許解読とか)。興味のある方は以下(↓)も併せて御覧下さい。
余談②

Eric Clapton氏、1999~2002年頃は、ステージによってLace Sensor Gold PU搭載のST57を使っている時と、Fender Vintage Noiseless PUのST57を使っている時があります。映像作品でも、
と行ったり来たりしています。その後一旦Noiseless PUに落ち着いていたようなのですが、00年代後半から再びLace Sensor Gold PU搭載のST57も弾いているんですよね(Fender Vintage Noiseless PU搭載のST57と使い分けています)。新しいBD/DVDの作品ではFender Vintage Noiseless PUの絵ばかりですが、YouTubeとかに上がっている映像(どこかでTV放送されたもの)ではLase Sensor PUもよく見ます(細かい点もよく見ると、昔の「Fender-Lace Sensor」でなく、現行の「Lace Sensor」の刻印)。…この辺り、Lace Sensor社との契約が切れたFender社と、Clapton氏との間の供給/保守契約とかいった大人の事情も関係しているのかも知れません。

それにしても。Clapton氏、Lace SensorのPUを使い始めて四半世紀以上になります。音や対ノイズ性について、よっぽど気に入っているのでしょうね。

余談③

友人S氏が数年前に買ったBlackie (2010年製、上記の分類で言えば3.の一般品)をいじらせて貰ったことがあります(いじらせて…の内容は、ネック状態のチェックとかブリッジの調整とか…ワタシゃローディか?/笑)。このBlackie、1~6弦が全部ポールピースの真上を通っています。あれ?と思って弦間隔(ブリッジサドル幅)を確認しました。
  • ワタシのBlackie (2001年製)…ブリッジサドル幅11.3mm (オールドタイプの寸法)
  • S氏のBlackie (2010年製)…ブリッジサドル幅11.0mm (現行タイプと同じ寸法)
    • 細かく採寸させて貰ったところ、ブリッジ(Synchronized Tremolo)そのものはオールドタイプ、サドルだけ現行型の11.0mmの物が付いているようです。この場合サドル間に微妙に隙間が出来ます。Stratocasterのサドルは、オクターブ調整ネジとスプリングで「何となく」位置が決まっているだけなので、弦を緩めた状態で「ギュッ」と幅寄せして配置すれば、弦の横位置をコンマ何ミリかずらせるようです。そうか、その技があったか!
    • Clapton氏の最近のST57が同じ「調整技」を使っているのかどうかよく判りませんが、上から2枚目の写真の通り、映像はどう見ても弦間隔はポールピースに合わせてあるようです。
    • Fender社の公式サポートページ<https://support.fender.com/hc/en-us/articles/214344583-Stratocaster-Service-Diagrams>で見られる図面では「Bridge Assembly, Vintage Strat」としか書かれていません。Vintage Stratというのはサドルが(ブロックタイプでなく)プレートタイプであることを指すだけで、サドル幅がオールドタイプかどうはまでは不明です。
という訳で、同じClaptonシグネチャモデルでも、最近のモデルはサドルだけ現行型(11.0mm幅)という仕様変更のようです(ついでに書くと、PUの1弦のポールピースが2001年製より低め~通常のSTと同じくらい?~、細かな部分も変更されているようです)。いずれにせよ、今のClapton氏は、弦とポールピースの位置ズレは無し。ズレているのは、やっぱり駄目なのかも知れません。近年Clapton氏が出しているST57の音は、2000年頃と比べてパリパリした音。つまり、Stratocasterらしい音。2000年頃は、たぶんGibson SGやES-335といったハムバッカーPUを意識した、太めの音をStratocasterで出していたのだと思います。そう言えば2001 L.A.ライヴでは最初にGibson Byrdland (フルアコ)、最後にMartin 000-28EC (アコースティック)を弾いている他はST57 (Fender Vintage Noiseless PU)で通していますが、2002 Hyde ParkライヴではGibson ES-335とST57 (Fender-Lace Sensor Gold PU)を持ち替えて音のキャラを使い分けていました。

…と考えると、2000年頃のあの弦・ポールピースの「ズレ」は一体何だったのでしょうか? 音を追求した結果? それとも単に過渡的な状態?(←Clapton氏やFender社が中途半端なことをするとは思えませんが。) 良いとか悪いとかではなく、単にClapton氏の求める音が変わってきた、と考えるのが妥当かも知れません。

さて、当初の目的。1990年代後半のClapton氏の音を再現するには、やはりLace Sensor Gold PUを載せたいです。素体としては手持ちのBlackieを使い、1弦がPUから遠くなってしまう件については、ブリッジサドルだけ現行の11.0mm幅の物に交換してエイヤッと幅寄せすれば万事解決っぽいです。

まずは11.0mm幅のサドルだけ買っておくことにします。でも、Fender社の公式Webページって、寸法とかの細かい情報が殆ど載っていないのですよね。仕方が無いので、各製品(パーツ)の説明文、特に、搭載されているギターモデル等を細々と見て行くと、概ね以下のように考えれば良いようです:
しかし、オールドタイプの方が高いとは(笑)。

それにしても、PU交換。ピックガードを外して半田付けし直しとか、何度もやるのはやっぱり面倒臭いな。やっぱり、Lace Sensor Gold PU搭載用に、もう1本Blackieが欲しい(3年前と言っていることが変わらない/笑)。Lace Sensor載せるなら色は黒じゃなくてTorino RedかPewterですよね。

しかし素体として新品ギター買うのもな~(笑)。

【業務連絡】 Sちゃん、いやS様。ワタクシメに、この2010年製Blackie譲って下さる気はございませんか? 出来れば格安で(笑)。その代わりと言ってはナンですが、御愛用のギター、今まで以上にメンテして差し上げますよ?

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